眼鏡の基礎を知るシリーズ #6
シリーズ #1「フレームシェイプ編」はこちら → 眼鏡フレームの形で印象はこう変わる
シリーズ #2「フレーム素材編」はこちら → 素材を知るとメガネがもっと楽しくなる
眼鏡のつるを広げるとき、「カチッ」とした感覚を感じたことはありませんか?
あるいは、つるが突然ぐらついてしまい、修理に持ち込んだ経験がある方もいるかもしれません。
その部分が「丁番(ヒンジ)」です。
そして、フレームのところどころにある小さな鋲のような金属パーツ——あれは「カシメ」といいます。
丁番とカシメは、見た目は似ていても役割がまったく異なります。
この記事では、その違いをはっきり整理しながら、各種類の特徴とブランドのこだわりまでを解説します。
「眼鏡の細部にも意味がある」と感じていただける内容になっています。
眼鏡の「丁番(ヒンジ)」とは?基本の役割をおさらい
テンプルとフロントをつなぐ「可動部品」
丁番(ヒンジ)は、眼鏡のフロント(レンズを囲む前枠部分)とテンプル(耳にかけるつるの部分)をつなぐ、蝶番(ちょうつがい)のような部品です。
丁番があるから、テンプルを開いて眼鏡をかけたり、折りたたんでケースにしまったりできます。
毎日何度も繰り返す「開く・閉じる」という動作を支え続ける、眼鏡の中でもっとも酷使されるパーツのひとつといえます。
構造としては、フロント側とテンプル側にそれぞれ「コマ」と呼ばれる部品があり、それをネジで連結しています。
このコマの数が多いほど「多コマ丁番」と呼ばれ、強度や耐久性が高まります。
私もテンプルのぐらつきを感じたとき、精密ドライバーで自分でネジを締め直すことがあります。軽いぐらつきであれば、これで十分対応できることがほとんどです。ただし、繰り返し緩む場合はネジ穴が傷んでいるサインかもしれません。そのときは無理に締め直さず、早めに眼鏡店へ持ち込むようにしています。
丁番が壊れるとどうなる?よくある原因と症状
丁番は消耗部品です。使い方や素材によって、様々な不具合が起きることがあります。
よくある症状は以下の通りです。
- テンプルがぐらつく・開いた状態でも安定しない
- 開閉のたびに「ギシギシ」と音がする
- ネジが緩んだり、抜け落ちたりする
- テンプルが折れる(丁番付近での破損が多い)
原因の多くは「繰り返しの負荷による金属疲労」と「ネジの緩み」です。
気になる症状が出たら、早めに眼鏡店へ持っていくことをおすすめします。
放置すると丁番本体やフレームへのダメージが広がります。
丁番の種類と特徴——バレル・スプリング・フレキシブルの違い
バレルヒンジ(通常丁番)——シンプルで定番の構造
バレルヒンジは、もっとも広く使われているスタンダードな丁番です。
フロント側とテンプル側のコマをネジ1本で連結した、シンプルな構造をしています。
特徴まとめ
- 構造がシンプルで、修理・部品交換がしやすい
- クラシカルなフレームデザインに合う
- コマ数を増やすことで強度を上げられる(3〜7コマ以上など)
- スプリングヒンジと比べると開きしろが限られる
バレルヒンジはいわば「眼鏡の丁番の基本形」です。
多コマ仕様にすることで接合面積が増し、耐久性が高まります。
職人的なこだわりのあるブランドほど、コマ数の多い丁番を採用する傾向があります。
スプリングヒンジ(バネ丁番)——かけ外しに強い機能派
スプリングヒンジは、丁番の内部にバネ(スプリング)を内蔵した丁番です。
テンプルを外側に開きすぎても、バネの力で自然に元の位置に戻ります。
特徴まとめ
- テンプルを外側に開いてもバネが元に戻す
- 頭が大きめの方や、かけ外しが多い方に向いている
- 落としたときや子どもが引っ張ったときのダメージを吸収しやすい
- 構造が複雑なため、バレルヒンジより修理コストが高くなる場合も
「かけ外しを頻繁にする」「子どもに眼鏡を引っ張られることがある」という方には、スプリングヒンジのフレームが特に頼りになります。
フレキシブルヒンジ(板バネ・形状記憶)——しなやかさと耐久性を両立
フレキシブルヒンジは、板バネや形状記憶合金を使った、柔軟性に優れた丁番です。
テンプル全体がしなるように動き、ひねったり曲げたりしても元の形に戻ります。
特徴まとめ
- テンプルが大きくしなっても元に戻る
- 落下時の衝撃に強く、変形しにくい
- 子ども用・スポーツ用フレームに多く採用されている
- TR90などの軽量樹脂素材と組み合わせることが多い
スプリングヒンジは「開閉の柔軟性」が特徴なのに対し、フレキシブルヒンジは「テンプル自体のしなやかさ」が特徴です。
この違いを知っておくと、フレーム選びの判断基準になります。
スプリングヒンジのフレームを持っています。ほとんど調整いらずで締め付け感もなく、掛け心地の良さを実感しています。ただ個人的には、重めのフレームの場合は少し注意が必要だと感じています。スプリングヒンジは締め付けの強さを調整しにくい分、フレーム自体の重さがずり落ちに影響することがあります。そういった場合は、フィッティングで締め具合を調整できるバレルヒンジのほうが向いているかもしれません。あくまで私個人の印象ですが、ヒンジの種類とフレームの重さはセットで考えると良いと思っています。
多コマ丁番——コマ数が増えると何が変わる?
多コマ丁番は、フロント側とテンプル側のコマを3枚以上重ねた丁番です。
コマの数が多いほど接合面積が増え、ネジにかかる負担が分散されます。
コマ数が多い丁番は、眼鏡フレームの中でも「しっかり作られた証」として評価されます。
ハンドメイドや職人仕事を大切にするブランドが好んで採用する構造です。
コマ自体の形状も、丸いバレル型から角型・六角形型などブランドによって個性が出ます。
「コマの形」を見るだけで、そのブランドのデザイン観が伝わってくることもあります。
眼鏡の「カシメ」とは何か?丁番との違いを整理する
カシメはリベット状の固定・装飾パーツ——可動しないのが丁番との最大の違い
カシメは、フレームのパーツを固定するために打ち込まれた、鋲(びょう)状の金属パーツです。
リベット、あるいはピンと呼ばれることもあります。
丁番との最大の違いは「動かない」ことです。
| 丁番(ヒンジ) | カシメ | |
|---|---|---|
| 役割 | テンプルとフロントの開閉を担う | パーツの固定・装飾 |
| 動き | 可動する | 可動しない |
| 位置 | テンプルとフロントの接合部 | ヨロイ・フレームの各所 |
「眼鏡についている小さな鋲はすべて丁番」と思いがちですが、丁番以外の場所についている鋲状の金属はカシメである場合がほとんどです。
カシメはフレームの「ヨロイ」(テンプルとフロントをつなぐL字型のパーツ)や、テンプル先端などに使われていることが多く見られます。
カシメの役割は2つ——構造補強と装飾
カシメの役割は大きく「構造的な役割」と「装飾的な役割」の2つに分かれます。
構造的な役割
複数のパーツを重ねて固定し、フレームの強度を保ちます。
溶接やネジとは異なり、リベット状に打ち込む形で固定するため、衝撃分散に優れています。
装飾的な役割
カシメの形・素材・仕上げによって、フレームに独自のデザインアクセントが生まれます。
ブランドのアイコンになっているカシメも多く、見る人が見れば「どのブランドか」すぐ分かる存在感を持ちます。
眼鏡を選ぶとき、カシメのデザインをいつも確認しています。形・素材・仕上げによって印象が大きく変わり、フレームのワンポイントとして重要な要素だと感じています。一方で、タートオプティカルのブライアンのようにカシメなしのヴィンテージモデルも存在し、あえてカシメのないシンプルな顔を選ぶという楽しみ方もあります。「カシメあり」と「カシメなし」、どちらを選ぶかも眼鏡選びの醍醐味のひとつだと思っています。
カシメの主な種類——形状と呼び方
ダイヤ型・ダブルダイヤ・星型・3点鋲の特徴
カシメは形によって名称が変わり、そのフレームの雰囲気を大きく左右します。
ダイヤ型
菱形(ダイヤモンド形)のカシメ。角のあるシャープな輪郭が特徴で、クラシカルなフレームに多く使われます。光が当たると面ごとに輝きが変わり、存在感があります。
ダブルダイヤ
ダイヤ型を縦に2つ重ねた形状のカシメ。縦長のシルエットで、フレームに縦のリズムを加えます。
星型(スター)
星のシルエットをモチーフにしたカシメ。存在感があり、デザイン性の高いフレームに採用されます。後述するBJ CLASSIC COLLECTIONの北極星モチーフのカシメが代表的な例です。
3点鋲(スリーピン)
小さな鋲を3点並べて配置するカシメのスタイル。個々の鋲は小粒ですが、3点が揃うことでリズムが生まれ、フレームを引き締めます。
素材と仕上げの違いが印象を変える
カシメは形だけでなく、素材・仕上げによっても印象が変わります。
- ゴールド仕上げ:クラシカル・高級感・温かみ
- シルバー仕上げ:モダン・シャープ・クリーン
- ブラック仕上げ:ストイック・都会的・落ち着き
- マット仕上げ:控えめで上品・主張しすぎない
- ポリッシュ(光沢)仕上げ:輝きが強く、アクセサリー的な存在感
フレームの素材・カラーとカシメの仕上げを合わせることで、全体のバランスが整います。
逆にあえてコントラストをつけてデザイン的な面白さを出すブランドもあります。
ブランドに見る丁番・カシメのこだわり
眼鏡ブランドの中には、丁番やカシメを「そのブランドの顔」として設計しているものがあります。
ここでは代表的な5つのブランドの事例を紹介します。
999.9(フォーナインズ)の逆Rヒンジ——特許を持つ独自構造
999.9(フォーナインズ)が採用する「逆Rヒンジ」は、一般的な丁番と異なりテンプルが後方に回転する独自設計です。
通常の丁番はテンプルが横方向に開きますが、逆Rヒンジは後頭部側に向かって動く構造になっています。
この設計により、テンプルがこめかみ・耳への側圧を最小限に抑えながら、フレームがフェイスラインに自然にフィットします。
かけ心地の追求がそのまま形になった、特許取得済みのヒンジです。
EYEVAN 7285のミリタリーヒンジ——ヴィンテージ感を再現する技術
EYEVAN 7285は、様々なヴィンテージアイテムをデザインソースとするブランドです。
ミリタリーヒンジは、ヴィンテージのフライトジャケットのジッパーにインスパイアされた構造で、ワッシャーの配置により力を広い面積で分散させ、緩みにくく耐久性の高い丁番を実現しています。
コマの形状・ネジの配置・金属の質感まで、ヴィンテージの「本物らしさ」を丁番で表現しているところに、このブランドのこだわりが凝縮されています。
999.9、EYEVAN 7285、BJ CLASSIC COLLECTIONの眼鏡を実際に使っています。どのフレームもつくりがしっかりしていて、丁番のぐらつきをほとんど感じたことがありません。細部への丁寧な仕事が、毎日の掛け心地にそのまま現れていると実感しています。Persolはまだ手にしたことがないのですが、シルバーアローのデザインはずっと気になっている存在です。いつか店頭で手にとってみたいと思っています。
BJ CLASSIC COLLECTIONの鷲カシメ——ブランドのアイコンが宿る細部
BJ CLASSIC COLLECTIONは、世界最古の眼鏡メーカーとして知られるアメリカンオプティカルの日本正規代理店として深く関わるなかで、そのデザインと精神を受け継いだスタッフが設立したブランドです。
フレームのヨロイ部分には、ブランドロゴでもある鷲の翼を模したカシメが打たれています。
テンプルには北極星をモチーフにした星形のカシメも採用されています。
カシメひとつひとつにここまでこだわるブランドは珍しく、眼鏡を「語れるアクセサリー」として捉えるブランドの姿勢が細部に表れています。
Persolのシルバーアロー——アイコン的装飾の代表例
イタリアのアイウェアブランドPersolのフレームには、テンプル部分に矢を模した「シルバーアロー」と呼ばれる金属パーツが付いています。
これはブランド創業以来のアイコン的なデザインで、Persolのフレームを一目で識別できるシンボルになっています。
このシルバーアローはカシメとしての固定機能を持ちつつ、ブランドのアイデンティティとしての装飾的役割も担っています。
「見ればPersolとわかる」という唯一無二の存在感が、長年にわたって多くのファンを引きつけています。
まとめ——細部を知ると眼鏡選びが変わる
この記事で解説した内容を振り返ります。
- 丁番(ヒンジ) は、テンプルとフロントをつなぐ「開閉のための可動部品」
- カシメ は、パーツを固定・装飾する「可動しないリベット状の金属部品」
- 丁番にはバレル・スプリング・フレキシブルなど種類があり、用途・使い方によって向き不向きがある
- カシメにはダイヤ型・ダブルダイヤ・星型・3点鋲など形の種類があり、素材・仕上げでも印象が変わる
- ブランドによっては丁番・カシメが「そのブランドの顔」になっている
「なんとなく触れていた部品」の名前と役割を知るだけで、眼鏡を選ぶときの視点がひとつ増えます。
次に眼鏡を選ぶときや店頭で手に取るとき、ぜひ丁番とカシメにも目を向けてみてください。
丁番・カシメに注目して眼鏡を選んでみよう
「スプリングヒンジで丈夫なフレームを探したい」「カシメがおしゃれなクラシックフレームが見たい」——そんな視点が生まれたら、ぜひフレーム探しの参考にしてみましょう。
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